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2012/08/15

薩摩の異端児、アジアに挑む

Tweet ThisSend to Facebook | by:こうせい

日経ビジネス20120806日号

   整形外科米盛病院理事長・院長米盛光治

母校の鹿児島大学医学部で整形外科の研修医として配属した1990年、初めて担当した15歳のサッカー少年。少年の病名は「骨肉種」膝の骨を破壊した悪性腫瘍は、ボールを奪うだけでなく肺に転移した癌細胞は、空気さえも奪い去ろうとした。

 当時日本で使われていた抗がん剤は効かなかった。この少年を救うため米盛は、海外から最新の論文を取り寄せ、どんな薬剤が効くか思案に暮れ、多い時は1ヶ月に25日も当直する日が続く。しかし少年の闘病生活は1年余りで終わった。

 この事が米盛の人生を変えるきっかけとなる。米盛自身少年の頃は、宇宙飛行士を目指すことを本気で夢見ていた。しかし、17歳の時、進路を変えざるを得ない事態が起きる。医院を経営する父親が突然倒れICUに担ぎ込まれる。母親を安心させるため、病院を継ぐ決意をする。幸いにも父親は回復したものの、約束を果たすため、鹿児島大学医学部に進学する。

 整形外科の研修医になった米盛が対峙しなければならなかったのは、あのサッカー少年のような骨肉種の患者だ。患者の75%が20歳未満で発症し、病態によっては膝や肩を切除する。若者が腕や足を失ったり、天命を全うできずにいる。恵まれた環境を過ごした米盛だからこそ、その不条理に強く憤慨し人が変わったように医学に没頭する。

 30歳で実家を継ぐことになるが、公認会計士が「これからは高齢化社会を迎える。したがって当医院も高齢者医療をやれば」と放った一言が米盛を発奮させる。高齢者向けの医療を否定はしないが、自分はあのサッカー少年のように人生が広がっていく若者の生命を助けたい。

 それからというもの医師としてだけでなく経営者としても、病院の将来を考えるようになる。手当たり次第に経営書を読み、特に影響を受けたのはピーター・ドラッカー。時間が許す限り経営者向けの勉強会に足を運ぶ。こうして自分が病院を経営するときのために、長期経営計画を策定する。

 当時の米盛医院は、父親も含め医師は4人、整形外科医としては地元では知名度はあったものの、年間の手術数やベット数では地方の小規模病院の域を脱していなかった。診療科目を増やし地域の総合病院としての選択肢を除外した。将来人口減少により縮小するマーケットを相手にするより、「整形外科の総合病院」を目指し、整形外科分野のどんな患者でも受け入れる事が出来れば、九州はおろか、日本全体やアジアから患者がやってくる。

 200236歳で病院の院長に就任。長期経営計画の実行に取り組み、課題を3年ごとの中期経営計画に落とし込み、1つずつ確実にクリアしてきた。人材の拡充には骨が折れる。医師の人事権は出身大学の医局が握る。出身大学以外から医師を引き抜く事は、他人の懐に手を突っ込むこと。この反発に覚悟のうえ優秀な医師を少しずつ増やした。

 このようにし、常勤医師は15人、ベット数も370床、2011年の手術症例は1372例を数える。こうなると医師や看護師の負担が多くなることから、「医療コンシェルジュ」を採用。この役割は、若い女性が病院に患者が着いた時から医師が診察するまでに世話をしたり、不安を取り除くため患者から情報を得る。この情報はITで共有する。したがって医師は診察までにかなりの情報を得る。

 更に医師を助ける「ドクタークラーク」という役割もある。電子カルテは全国的に広まっているが、キーボード入力に時間がとられる。そこでドクタークラークが電子カルテに入力。医師は患者と向き合う時間が長くなり、1人の医師が診察できる患者数も増え、患者満足度を向上させながら経営効率を高める仕組みに取り組んでいる。

 人口減少で患者そのものが減る。地方の病院が生き残るために出した答えが整形外科としての総合病院。医療ツーリズムもその戦略の延長線上にある。医療を求めて海外に渡る人は全世界で数百万人、市場規模は2012年度で1000億ドルを超えると試算されている。


 コラム
 社会保障と税の一体改革で消費税を上げることが決まった。社会保障について年金問題はよく取り上げられているが、もう一つの医療の問題はあまり表に出ていない。私の2012年3月議会の一般質問で取り上げた、2030年の看取り場所の問題であるが、国立の社会保険・人口問題研究所が推計しており、医療機関で89万人、介護施設で9万人、自宅で20万人、その他が47万人としております。
 詳しくは後ほど掲載の一般質問を参考にしていただければと思います。ここで問題にしたのがその他の47万人です。その他とは不慮の事故や自殺、他殺のことです。ちなみに2010年は、2万7千人ですので、これを47万人としたことは、看取り場所が決められていないことです。
 政府民主党はは今年4月の政権をとって2回目の医療報酬を上げました。これは今後の医療の方向として、在宅医療を進めようとすることが窺えますが、これらは国の問題でありながら、我々地方が取り組む課題であります。今後もこの医療問題に関する情報は提供していきたいと思います。共に考えましょう。



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