【地域保健・地域医療の課題と展望】
自治医科大学 梶井英治 地域医療センター長
医療にかけるGDPの割合は、2005年では米国15.3%、日本8.0%、24~5万円でOECD平均で9.0%となっている。人口100万人に対するCT・MRIの保有台数は世界一であるが、放射線治療器数は13番目になる。
わが国の医療の現状は、高齢社会と健康問題の変化から、医療の役割は病気の治療から病気の管理、健康の維持、体の機能回復へとなっている。医療の問題は、医師の偏在と医療の地域格差や患者の大病院への集中、専門性に片寄った医療提供体制、プライマリ・ケア体制の未整備、医療高騰に伴う医療制度の後退などがある。
住民の医療機関の選択は、うわさ、イメージによる選択、大病院、専門医志向、また権利意識の台頭からとまどい、不信感の増大、多数の医療機関・診療科の受診、特定医療機関への集中しているのが実情である。
医師不足の現状としては、医師の絶対数が不足している。医師が偏在している。偏在は、都市部に集中している、そして中小規模の病院の医師が足りない。さらに小児科医、産科医、麻酔科医が足りない、夜間、休日に診療する医師が少ないなどの特徴がある。
医師不足には、養成数の不足、医師の偏在、医師需要と医師数との不均衡があげられるが、諸外国から見て日本は病床数が164.7万床、米国で96.5万床、英国で25万床で、これは人口千人当たり日本が12.8床、米国が3.3床、、英国が4.2床である。また年間受診回数では日本が14.1、米国8.9回、英国5.2回になる。
このように世界を標準に比して判るように病床数と受診患者数が多く、その質の確保が困難で、サービスの低下や医療事故・ミスの増大につながり、患者の不安・不満の増大につながっている。これらは医療者の献身的努力に限界がきている。
医師の心理の変化と影響に関係するのは、日常業務の増大、精神的負荷の増大、離床研修の重視、自己選択の重視などの影響により、医師のストレス増大、激務、特に重症、緊急業務からの回避、選択診療科の偏り、開業医の増加、脱医局化への進展が挙げられる。
また、大学の力の変化とその影響については、教育・診療業務の増加と多様化及び、医師派遣能力の低下、研修医離れ、付属病院の経営困難などから、個々の負担の増加、派遣医の引きあげ、大学の力に陰りや医局体制のていかなどが挙げられる。これらは、医療を取り巻く負のスパイラル減少を起こしている。
地域医療とその課題及び対策として、プライマリ・ケアが求められており、米国国立科学アカデミーでは、患者の抱える問題の大部分に対処でき、かつ継続的なパートナーシップを築き、家庭及び地域という枠組みの中で責任を持って診療する臨床医によって提供される総合性と受診のしやすさを特徴とするヘルスケアサービスを言う。
地域医療の位置づけと取り組みについて、地域医療とは、そこで生活する地域住民のための生活支援活動であり、地域医療の主人公は地域の住民である。ここでいう地域は、へき地から都市部まで包括される。
国民の健康を取り巻く現状と課題は、高齢化、疾病の慢性化、複合化、人間関係の過疎化が挙げられ、疾病の予防、継続的ケアや闘病への支援(介護・リハビリ)、QOLの向上、生きがい感の回復が求められている。
地域医療の取り組みとして、健康教室、疾病予防から治療、リハビリテーション、在宅ケアまでを限られた医療資源(人・物・金・情報)の中で同実施するかが課題である。これらには、一貫した全人的、包括的医療の実践や多職種連携の促進が求められている。
多職種連携とチーム医療とは、患者と医師、医師と歯科医師、栄養士、放射線技師、検査技師、理学療法士、作業療法士、視能訓練士、言語聴覚士、臨床工学技士、臨床心理士、カウンセラー、ソーシャルワーカー、医療事務、歯科衛生士、看護師、薬剤師、医師と其々患者との連携でチーム医療とする。
地域連携として、千葉県地域福祉支援計画としては、社会福祉協議会と老人クラブ、民生委員児童委員等、株式会社、社会福祉法人、NPO,ボランティア団体、自治会町内会、農協生協、その他、商店街、学校、医療機関が連携し、地域住民との取り組み方を検討している。
これからの福祉は、規格化されたサービス・ケアのオーダーメイド化へ小規模・多機能・地域密着で社会資源の効率的・効果的な活用が求められている。ICT(情報通信技術)を利用した遠距離医療福祉システムで患者・住民と健康・医療介護福祉関係者を機能的に結ぶものである。
これまで住民の受診行動は、診療所や第一線病院、中核病院、大学病院の利用は患者により選択されていたが、本来あるべき医療の流れは、患者と診療所、診療所と第一線病院、中核病院、大学病院への流れ、第一線病院と第一線病院、第一線病院から中核病院、大学病院への流れを作らなければならない。
医療の流れ作りの基本は、医療機関の機能分担と連携、総合医の育成と定着、住民への啓発・啓蒙、相互の信頼と理解・協力が求められており、これからの医療連携体制は、かかりつけ医が救急医療、介護福祉、慢性期医療、りはびり、高度医療、急性期医療、そして緊急医療と連携の輪が必要となる。
公的病院の連携とネットワーク化としてのメリットは、医療提供体制の継続性・安全性、良質で安全な医療の提供、病院経営の健全化、緊急医療体制の確保、医療関係者の勤務環境の改善ができることであり、デメリットは地域住民の利便性低下、通院に要する時間・経費の増加、規模縮小に伴う住民お不安、地域中核病院への患者集中などがある。
今後総合医を育むために医療学教育が必要としている。それは、公平性を求めるための生命倫理学、妥当性の医療社会学、有効性の医療判断学、安全性の臨床疾学、効率性の臨床経済学が必要であると説明したが、私は予防性の臨床栄養学が必要であると述べた。
卒業前の医学教育にプライマリ・ケア教育を実施しており、プライマリ・ケア医の役割、地域包括ケアの見学・体験実習、保健福祉現場での実習など医学教育モデル・カリキュラムに地域医療が導入されている。この結果医学生の希望進路は、プライマリ・ケア+専門医が81%、専門的医療に習熟した専門医に11%、幅広く対応できるプライマリ・ケア医には8%となっている。
このような中で、地域医療を育まなければならないが、医療は限りある資源とし、医療資源の有効利用を考えようと、診療室から地域の中へと住民に、健康の守り方、病気の知識、対処する術、地域医療づくりについて、子供たちには、命のこと、身体のこと、健康のこと、病気と生活習慣のこと、応急処置のことを考えようと訴えている。
ある過疎地で医師が過労で倒れ、それでも診療を続けた「コモンズの悲劇」をつくっていませんか、コンビに受診を控えるよう訴え、医師を守り育む地元力で、時間外患者が減少、このように医者は住民の共有財産、使い尽くさないようにと取り組みを行っている地域の事例報告があった。
(平成20年11月18日~20日 政務調査市町村アカデミー報告書より抜粋)