日経ビジネス2012年09月24号
今の中国をどう見る
中国の大学の双璧である精華大学と北京大学で教壇に立つ唯一の日本人である紺野大介氏は、「今の中国は日本の幕末期」と見る。紺野氏は精華大学招聘教授、北京大学客座教授で、精華大学では「トライボロジー(摩擦学)」を教えている。創業支援推進機構(ETT)理事長でもあり、ベンチャーを育成するNPOを運営、経済界における技術の指南役として知られる。
中国経済の失速を指摘する声もあるが……中国は永久に栄えることはない。インドが発展してくるから、いずれは中国経済が減速する日も来る。ただ、我々が生きている間は、中国の時代だと思う。ここ10年や20年の期間では、GDPの伸びの減速があっても心配はない。
今年、指導部が代わる。政治が経済に及ぼす影響は……省や市の政府と中央政府と分けて考える必要がある。中央政府が中国経済の足腰を強くしているわけでない。広東省や上海市、瀋陽市、大連市の地域の政治家は、自分の省や市の経済力が近隣と比べ高いかどうかで人生が決まる。
社会主義国なのに、政治も経済も資本主義国より競争原理が働いているよう……今の中国は、ほぼパーフェクトな資本主義国と言ってよい。米国より資本主義の色彩が濃い。産業だけでなく学問では、厳しい競争社会で育ったから中国の知識階層は大きな力を備えたといえる。米国は「研究力」で世界のトップに君臨しているが、実態は中国の知識階層が支える。
精華大学は、人口13億人のうちトップ2500人の超難関大学、東京大学は1.3億人のうち3000人……中国にも受験塾があるが、そこでいくら学んでも太刀打ちできない、ずば抜けた人材が精華大学に入学してくる。例えば、ゴビ砂漠で馬に乗り羊を追いかけている子供の中で、感性の良い子供に、高校2~3年になって教科書を見せると、教科書を読むだけで、脱脂綿がインクを吸うように、中身が頭の中に入っていく。
中国のトップエリートに共通する気質は……とにかく「ひたむき」であること、大学の学生や教員、産業界のリーダーもひたむきで謙虚。この気質こそ中国が成長を続ける一因。例えば、摩擦学の研究にAFM(原子間力顕微鏡)が必須だが、20年前の着任当時2500万円もする機器は買えなかった。しかし、AFMがなければ世界に勝てない。そこで彼らは、徹底的に原理を学び、2~3ヶ月で自力で作ってしまう。このように汗を流して追い求める姿勢が至る所にある。
日本人が汗を掻かなくなったのは恵まれた環境の影響……今の日本人は誰かがやってくれると思っている人が多い。実際は誰も手助けしてくれない。幕末期は、吉田松陰や橋本左内の周りには、汗を流して追い求める人が大勢いた。今の日本では、失われてしまった志や誇り、責任感が幕末にはあった。
現在の中国は、日本の幕末期に似ているという、また北京大学は精華大学とがらりと変わり、「武士道」を教えているというが……幕末の日本人の周囲には謙譲や倫理観、美意識は垂涎の的で、この倫理観や美意識を学ぶには、武士道に行き着く。中国の知識階級は謙虚で、素晴らしいものがあれば、素直に認め、貧欲に吸収していく。これが数多くのベンチャー企業の成功につながる。
紺野教授の「技術の目利き」NPO法人創業支援推進機構の創設を……日本にも第三者評価機関が必要と考えETTを設立した。1つの案件に、分野は同じでも専門が違う約10人の委員が評価にあたる。それぞれの分野で日本は世界一の水準。この優秀な人達に横串を刺し、世界最高の評価機関ができる。このETTが評価した物は、ベンチャーの成功の確率が高い。以後ETTの役割はこれに資金をつけること。
尖閣諸島を巡る日中問題は……中国報道官の一連の発言は、米国政府がこの問題をどう見るか知るためだろう。日本は政治力も外交力も乏しい。しかし、中国の知識階層の9割は苦々しく思っている。日本を怒らせたくないと。中国の経済発展にどれだけ日本が貢献しているか、彼らが一番よく知っているから。
……続きはコラムで……